
初めてのガソリンエンジン車ベンツには変速機はなく、2段の減速のみで大きな車輪を駆動した。ダイムラーのそれは少し進化し2段の変速機構を備えていた。それ以後トランスミッションは多段化へと向かう。今やマニュアルトランスミッションは限られたクルマだけのものとなった。
※この記事は、2016年発行の『オートメカニック』に掲載されたものです。
●文:オートメカニック車編集部
世界で初めてガソリンエンジンを搭載したベンツの3輪車。変速機はなく、2段の減速のみで走行した。エンスト防止のために大きな横置きフライホイールを備えていた。
1886年に登場した世界初のガソリンエンジン4輪車ダイムラー。1次変速は大小2個のプーリーを備えた2段切り替えで、2次伝達はチェーンと歯車で行った。
1速からはじまった変速機
世界で初めてガソリンエンジンを搭載した自動車はベンツの3輪車で、次いでダイムラーが4輪車を送り出した。ベンツのエンジンは985㏄で最高出力は0.88ps/400回転と非力なものだった。低いトルクを補い、発進もできるように2次減速が行われた。クランクシャフトからの動力は二つのプーリーを持つカウンターシャフトにベルトで伝えられ、カウンターシャフトの両端に設けられた小さなスプロケットと大きな車輪に固定された大スプロケットがチェーンで連結された。
カウンターシャフトに設けられた二つのプーリーのうちの一つはアイドラプーリーで、停車時に掛け替えられた。ダイムラーのそれはわずかに進化したもので、カウンターシャフト上に大小のプーリーが設けられ、ベルトを掛け替えることによって2段の変速が可能で、カウンターシャフト両端の小さなスプロケットが車輪に固定された大きなスプロケットと噛み合っていた。
1898年ルノーによってドライブシャフトとベベルギヤによる駆動方式が考案された。それ以後この方式は後輪駆動車の原型となった。写真は1902年に製造されたベンツ。
ルノーが開発したドライブシャフトギヤは多段化へと進化
1速固定と2速で始まった自動車のトランスミッションだったが、その後ギヤの噛み合わせによる多段化へと進む。ガソリンエンジンは出力こそ高いもののトルクが低い。発進や加速時に低いトルクを補うためにはトランスミッションは必須のパーツだったのだ。
今に繋がるギヤボックスとドライブシャフトが開発されたのは1898年のことで、ルイ・ルノーによるものだった。それまでのパワートレーンは噛み合わせのギヤが使われるようにはなっていたが、最終駆動にはチェーンが用いられていた。ギヤもチェーンも開放されたもので、給油が必要な他、水とほこりによる汚れにも見舞われていた。ルノーのギヤボックスとドライブシャフトはこれらの問題を一気に解決するものだった。
トランスミッションは大小のギヤを噛合わせることによって変速する。初期のそれはまさにシャフト上のギヤを移動させ、噛み合わせた。すでにルノー以前にコーンクラッチが開発されていたとはいえ、回転数の異なるギヤとギヤを噛み合わせるには経験と高い技術が求められたはずだ。
摺動式の欠点を補うものとして次に登場したのは常時噛み合い式だ。メインシャフトとカウンターシャフト上に設けられたすべてのギヤが常に噛み合って空転している。アウトプットシャフトに固定されたスリーブをこれらの各ギヤと噛み合わせることによってインプットシャフトの回転が各ギヤとスリーブを介してアウトプットシャフトに伝えられる。
常時噛み合い式とはいえ、スリーブとギヤの噛み合いは常に断続が伴う。摺動式と同様、スムーズに変速するためにはギヤとスリーブの回転を合わせる必要がある。
1928年キャデラックは世界に先駆けてトランスミッションにシンクロ機構を組み込んだ。図は当時、販売店に配布されたマニュアルに掲載されたもの(GMアーカイブスから)。
シンクロメッシュの登場、キャデラックが初採用
このために使われたテクニックがダブルクラッチといわれるものだ。ギヤの回転数とエンジンの回転数をニュートラル状態で同期させ、スムーズに噛み合わせる。しかし煩わしい作業には違いない。これを簡素化したのがGMで1928年、世界で初めてキャデラックにシンクロメッシュ機構を取り入れた。
スリーブの両端にコーンクラッチを設け、シフトチェンジのためにスリーブを移動させると、ギヤ側に設けられたコーンと接触し、ギヤとスリーブの回転が同期。さらにスリーブを移動させるとギヤとスムーズに噛み合うというのが基本的な仕組みだ。
マニュアルトランスミッションの時代は長く続いた。1速から始まり、今は6速になった。しかし多くのクルマはATへと移行し、高性能スポーツカーでもツインクラッチトランスミッションへと移行している。
シンクロ機構の核心部。シフトフォークの左右にシンクロナイザーリングが配置されている。一つのユニットが左右に移動し、二つのギヤの同期を受け持っている。
常時噛み合いとシンクロ機構による変速の一例。左はシンクロナイザーリングを左に移動させて1速ギヤを有効にした状態。右はリバース有効にした状態を示している。
マツダ・ロードスターに搭載されている6速マニュアルトランスミッション。シフトストロークとフライホイール慣性など、細かい部分でチューニングが施されている。
アウディA4用6速マニュアルトランスミッション。構造は基本的にFRのものと変わらないが、FFでは駆動軸の取り出し方が異なっている。
典型的な5速ギヤのレイアウト。常時噛み合い式のためすべてのギヤが噛み合っている。シンクロ機構は3個組み込まれ、それぞれが二つのギヤに対応している。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(大人気商品)
知らない間に進行してしまうヘッドライトの曇り。原因は紫外線 「最近、なんかヘッドライトが暗いな…」「光が拡散しているような気が…」。愛車のヘッドライトの光量について、このように感じたことはないだろうか[…]
ネジがナメてしまうトラブルを未然に防止するドライバー ネジを外そうと力を込めてドライバーを回すと、ビス山(ネジの十字の部分)から工具の先端部分が外れ、ビス山が潰れてしまう「ネジがナメた」と呼ばれる現象[…]
春から初夏の車内での休憩にぴったりのアイテム ドライブの合間のちょっとした休憩、車の中でちょっと睡眠をとりたくなることはよくある。筆者は取材などでロングドライブすることも少なくなく、さらに趣味が釣りな[…]
自力ではほぼ無理? 拭き取りにくいフロントガラスの奥の方問題 車種によって異なるが、例えばプリウスのように、フロントガラスが極端に寝かされたデザインだと、奥の方まで手が入りにくく、洗車の際や窓が曇った[…]
コンパクトなサイズのディスプレイ。取り付けは超カンタン どうしても必要というワケではないが、なんとなく気になるグッズやアイテム、皆さんもあるのではないだろうか? 今回紹介するのは、自車の車速や方角など[…]
人気記事ランキング(全体)
太陽光を活用した電源システムで、電力の心配から解放される 「ミニチュアクルーズ ATRAI SV」の大きな特徴のひとつが、標準装備されるSHARP製225Wソーラーパネルだ。車両のルーフにスマートに装[…]
忘れがちなタイヤの空気圧。最悪の場合は事故の原因に… 普段、やや忘れがちなタイヤの空気圧の存在。走行時に不安定な挙動を感じて初めて「もしかしたら空気圧が減ってる?」と、ちょっと不安に感じることもあるか[…]
ミニバン感覚で普段使いできるキャラバンに日産系キャンピングカープロショップが本格派キャンパーに仕立てる! クラフトキャンパー スペースキャンパーNB-COOLs(以下スペースキャンパーNB-COOLs[…]
シャンプーで築き上げた“本当によく落ちる”の実績 カーメイトの『本当によく落ちる水アカシャンプー』は、2011年にC63ホワイト&ホワイトパール車用とC64ダーク&メタリック車用がデビュー。 水アカだ[…]
樹脂パーツの劣化で愛車が古ぼけた印象に…。でもあきらめないで! いつも目にしている愛車が、なんとなく古ぼけた感じに…。それ、樹脂パーツの劣化が原因かもしれない。最近の車種は、フェンダーやバンパー、ドア[…]
最新の投稿記事(全体)
ホイールに付いた黒い頑固な汚れの原因はブレーキダスト 新車で購入した際はピカピカだった自慢のホイール。しかし、時を経てよく見てみると、黒い汚れが固着しているのに気づく。洗車しても全然落ちないほど頑固な[…]
ホンダの黎明期はオートバイメーカー、高い技術力を世界に猛アピール ホンダ初の4輪車は、エポックメイキングどころか、異端児だった!? …と、YouTubeのアオリ動画のタイトルみたいに始めてしまいました[…]
ベース車はホンダ N-VAN e: ! 大空間が魅力のEV軽キャンパーだ 今回紹介する軽キャンピングカーは岡モータース(香川県高松市)のオリジナルモデル、ミニチュアシマウザーCP。ジャパン[…]
統合によるスケールメリットで、次世代商用車の開発が加速 今回発表された合意内容は、三菱ふそうトラック・バス株式会社(以下、三菱ふそう)と日野自動車株式会社(以下、日野)は、対等な立場で統合し、商用車の[…]
カーボンニュートラルの実験場としてのスーパー耐久 スーパー耐久シリーズでは、メーカーの技術開発車両による参戦のためにST-Qクラスが設けられている。これまでもGRスープラや日産フェアレディZ(RZ34[…]
- 1
- 2